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高齢化社会の進行に従って,相続に関連する相談が当事務所でも増えています。相続トラブルは,残念なことに親族間で発生することがほとんどです。相続が発生したら,相続人間で遺産分割の協議をすべきですが,相続人それぞれが自分の言い分に固執しても生産的な話し合いは期待できないでしょう。そればかりか,それまでの親族間の信頼関係も崩壊してしまうことさえあります。
相続問題での親族間の軋轢を最小限にするためには,相続が発生したなら,可能な限り早い段階で弁護士に相談し,相続に関する法の規定を理解したうえで他の相続人と協議をすることだと思います。
また,できることなら,一定の年齢に達した人や一定の財産を築いた人は,遺言を残しておくことをお勧めします。そうすれば,原則としてあなたの意思通りに相続がなされ(但し,後記の遺留分についてはご注意ください)、相続人間でのトラブルは発生しにくくなるでしょう。
遺言は死ぬ間際に書くべきとのイメージがありますが,そうではありません。かえって,「十分な判断能力がない状態で書かれた遺言で無効だ」と,死後,相続人間で争われてしまう原因にもなりかねません。遺言は,判断能力が十分備わっている時期,すなわち元気な時期に作っておくべきです。書き直しは何度でもできますから,現時点で遺言を作成しておくことをお勧めします。
もっとも,遺言は法律で一定の方式が定められており,その方式に従って作成されていないと無効とされ,せっかくの遺言者の意思が無駄になってしまうことがあります(民法960条)。一般的には自筆証書遺言と公正証書遺言がありますが,それぞれに細かな規定がありますので,心配な方は弁護士にご相談ください。
自筆証書遺言は遺言をする人が,全文を自書し(財産を特定するための目録を除く),日付を書き,署名押印しなければなりません。この遺言は,費用がかからず簡単にできますが,文字が書けないほど健康状態が悪化したりした場合は,作成が困難になります。また、相続発生後は、家庭裁判所に対し遺言書の検認の請求が必要です(2020年7月から法務局に自筆証書遺言の保管を申請することが可能になりました。この場合は相続の際の検認の請求は不要です)。
公正証書遺言は,公証役場に出向いたり,公証人に来てもらったりして,公証人に遺言の内容を口頭で伝え,証人2名の立ち会いのもと,公証人が遺言書を作成するものです。この遺言は,手間と費用がかかるというデメリットがありますが,遺言者の死後,偽造や遺言者に判断能力がなかったなどの疑念を持たれにくい、遺言書の検認の請求が不要という点でメリットがあります。
以上,遺言が法に定める方式に違反していなかったとしても,相続財産の一部しか記載がないような場合や遺言の内容が不明確な場合は,やはり相続人間の争いの種になり得ます。金額や評価額の大きな財産は明確に特定したうえで誰に相続させるかを明記したり,細かな言葉遣いにも気を使ったりすべきです。例えば「相続させる」と「遺贈する」では意味が違ってきます(詳しくは弁護士にご相談ください)。
なお,当事務所は,遺言書を作成する際,後記の「遺留分」を考慮して作成することをお勧めしております。
亡くなった方(被相続人)の配偶者は,他の相続人の有無にかかわらず,常に相続人になります。
被相続人に子供(実子,養子)がいれば,子供が相続人となります。相談者の方で,「養子に出した子は,もはや実の親の相続人にはならない」と勘違いされている方がいらっしゃるのですが,実子は他人の養子になっていたとしても相続人となります。すなわち実親,養親それぞれの相続人になるのです。
被相続人に子供がいないとき,又は子供全員が相続放棄をしたなら,被相続人の直系尊属で親等の近い者(一般的には実親や養親)が相続人になります。そして,直系尊属も存在しないとき,又は直系尊属全員が相続放棄をしたなら,被相続人の兄弟姉妹が相続人となります。
上記範囲外の親族は,代襲者を除いて相続人にはなり得ません(内縁の配偶者も相続人になりません)。相続人ではない親族が故人の遺産について意見してくると話し合いが混乱するのが常です。そういった意味では誰が相続人で誰が相続人ではないのかを知っておくことは重要です。
もっとも,相続人になり得ない人でも,遺言書によって,被相続人の有した財産を譲り受けることはできます。これは「相続」ではなく「遺贈」と言います。
配偶者以外の相続人が複数いる場合,それら相続人間の相続分は等しいものとされるのが法の原則です。具体的には,子と配偶者が相続人であるときは,子1/2(子が2人のときはそれぞれが1/4ずつ),配偶者1/2であり,直系尊属と配偶者が相続人であるときは,直系尊属1/3(直系尊属が2人のときはそれぞれが1/6ずつ),配偶者2/3であり,兄弟姉妹と配偶者が相続人であるときは,兄弟姉妹1/4(兄弟姉妹が3人の時はそれぞれが1/12ずつ),配偶者3/4であります(民法900条)。
この理解がなく,上記割合を大きく逸脱した主張をする相続人がいると,後記の遺産分割協議が停滞することが多いようです。協議が成立したとしても,一部の相続人が不当に利益を受けて,一部の相続人は(本来の相続分に比べて)損をすることが多いと思います。
もっとも,上記割合は,法定相続分であり,遺言があれば,それに従うことになります。
有効な遺言がない場合や遺言から漏れている相続財産がある場合などは,相続人全員による遺産分割協議が必要になります。被相続人が残した不動産などの相続財産は,相続の発生により,法的には法定相続分に応じて相続人が共有している状態になってしまい,その財産の使用や処分に支障が出てくるからです。また,遺産分割が未了のまま相続人が死亡してしまったりすると,相続人の代替わり,枝分かれが発生し,付き合いの希薄な多数の者が遺産分割の当事者となり,ますます遺産分割が困難なります。
相続人間で協議してもなかなか進捗しない場合や協議に応じてくれない相続人がいる場合は,家庭裁判所に遺産分割の調停を申し立てることをお勧めします。調停でも分割の合意ができなければ裁判所により遺産分割の審判がなされます。
なお,相続人全員の合意があれば法定相続分とは無関係に遺産を分割できますが,現実的には相続分を考慮して合意することが多いものです。そこで,法定相続分を超えた分割を主張したいと考えている場合や主張されたりしている場合には,弁護士に相談し,法的な見解を聞くなり,代理を依頼するなりした方が賢明です。相続人の一部が「特別受益者」であるとの主張や「寄与分」の主張をすることで,法定相続分より有利な分割結果を得られることもあり得るからです。
意外と知られていませんが,被相続人が負っていた借入金等のマイナス財産も相続財産となります(民法896条)。相続財産にプラスの財産とマイナスの財産がある場合,プラスの財産だけを相続することはできません。そこで,マイナスの財産がプラスの財産より多いなら,家庭裁判所に対して相続放棄の申述をすべきです。相続放棄の申述をすれば,その人は相続人ではなくなり(民法939条),責任を背負うことはなくなります。
気を付けるべきは,相続放棄をすべき期間と放棄前の相続財産の処分です。相続放棄は「自己のために相続の開始があったことを知った時から3カ月以内に」しなければなりません(民法915条1項)。被相続人の死亡から3カ月以内にすることが無難ですが,実務上は,マイナス財産の存在が発覚してから3カ月以内でも認められることが多いです。しかし,相続財産の一部を使い込んだり,処分したりしてしまうと,相続を承認したものとみなされ,たとえ3カ月以内であっても,もはや相続放棄できなくなります(民法921条1号)。
放棄ができるか否かは,個別の事案によって判断が異なります。また,放棄の申述に際し,用意すべき資料を収集する上で,かなりの困難を伴うケースもあります。どうすべきか分からなくなったら,弁護士にご相談ください。
遺言執行者とは遺言の内容を実現するための手続を行う者のことです。相続人以外に人に一定の財産を渡したい(遺贈したい)といった内容や,一定の不動産を売却した上でその代金を相続人に取得させるといった内容の遺言書を残したい場合,遺言書にて遺言執行者の指定をしておくとよいでしょう。なぜなら,遺言執行者の指定がない場合には,財産の移転や売却に際し相続人全員の協力が必要となり,移転や売却がスムーズに進まないことが多いからです。
相続人や遺贈を受ける人自身を遺言執行者に指定することもできますが,遺言執行者には財産目録の作成や相続人への報告義務が法定されていますので(民法1011条,1012条2項・645条),遺言を遺す方は遺言執行者に弁護士等の法律の専門家を指定するのを検討すべきですし,遺言により遺言執行者に指定されていた方は遺言執行の代理を弁護士に委任することができます。
遺留分制度とは,一定の相続人のために相続財産の一定部分を保証する制度です。これは,原則として,遺言によっても奪うことはできないものであります。
遺留分は,兄弟姉妹を除く法定相続人,すなわち配偶者,子,直系尊属のみに認められています。そして,遺留分の割合は,直系尊属のみが相続人であるときは,相続財産の1/3,その他の場合は1/2です。この遺留分の率に,それぞれの法定相続分の率を乗じたものが,その者の遺留分の率となります。例えば、父が2000万円相当の全財産について「全財産を長男に相続させる」旨の遺言を残して死亡し,妻(法定相続分1/2)と長男(法定相続分1/4),二男(法定相続分1/4)が相続人だった場合,妻の遺留分は500万円(2000万円×1/2×1/2),二男の遺留分は250万円(2000万円×1/2×1/4)となります。
これらの規定が民法にあることから,遺言書作成の際には注意が必要です。遺留分を侵害する遺言は一応有効ではあるのですが,遺留分を侵害された者が遺留分の侵害額の請求をすると,相続財産を相続した相続人は侵害額相当の金銭を請求した他の相続人に支払う義務が生じます(遺留分侵害額請求といいます)。ですから,特定の人にだけ多くの財産を相続させたい(遺贈したい)場合には,注意が必要です。
一方,遺留分侵害額請求をしたい人は,相続の開始及び自身の遺留分の侵害を知った時から1年以内にしなければなりません。
なお,補足ではありますが,遺留分の計算には,相続発生時の相続財産のみならず相続開始前一定期間内にされた生前贈与も算入されます。